2023.8.3

2.「コンビニで売れる小規模修善サービス」を目指して

何十億円、何百億円という新築大型工事ばかりを狙って営業活動しているゼネコン社員にとって、セブンイレブン、ヤマト運輸のビジネスモデルは衝撃的だった。

当時、セブンイレブンで顧客が1回に購入する金額の平均は700円だと聞いた。ヤマト運輸もまだ国内メール便を始めていなかった頃だが、平均単価は500円と聞いた記憶がある。顧客単価が1000円以下の商品・サービスでも、全国規模で事業を展開することでセブンイレブンの全店舗売上高は1兆5000億円規模となっていた。

学生や独身社会人を中心に多くの人が毎日のようにセブンイレブンで買い物してくれれば、これだけの巨大な市場になることに気付かされた。ちょうどその頃、ユニクロが低価格商品で全国展開を始めていた。果たして衣料品でも、セブンイレブンのようなビジネスモデルで成功できるのかと注目したが、価格だけでなく品質も良く、大量に売れるようになった。

住宅にしても大型ビルにしても非常に高額な商品なので、ちょっとの不具合も許されない。構造上の問題が発覚して工事をやり直すとなれば、事業者側には巨額の損失が発生する。しかし、小規模な修繕工事であれば、万一、失敗してもリカバーできるし、きちんと対応すれば顧客も納得してくれるだろう。修繕工事であれば、コンビニのようなビジネスモデルをつくることができるのではないか―。それが最初の発想だった。

 

「1時間3000円で何でも修繕します!」で驚きの結果に

 

住宅のちょっとしたリフォーム工事でも材料費を含めれば数十万円、数百万円の工事になる。それではコンビニのようなビジネスモデルにはならないので、1案件5万円で修繕サービスが提供できるかを考えた。

1990年代の労務費は1日2万円を超えていた。2000年代に入って国内建設投資が減少して、2009年のリーマンショックの頃に「ワンコイン大工」(時給500円)が登場するなど労働条件が悪化した時期もあったが、私自身は職人の待遇を良くすることで施工品質を確保することが不可欠だと考えていた。1案件5万円なら、職人には2万4000円は配分できる。そんな仕事を1日に2件、3件できれば職人も嬉しいだろう。

問題は日給2万4000円をフルに稼げるための仕事を確保できるのかどうか―。そこで総合企画部として、都内の一部地域を対象に「1時間3000円で何でも修繕します!」という実験をやってみた。その結果、1案件で600万円とか800万円という工事が取れてしまった。

 

画像:当時の宣伝チラシ

 

最初は「下水管の詰まりを取ってよ」という依頼だったのが、その仕事振りを見て「ついでに、こっちも見てよ」「あっちも調子が悪いのよ」と2時間も3時間もお客さんに捕まってしまう。次々に依頼が増えて、最終的に600万円、800万円の修繕工事になったというわけだ。

次に、最初から600万円、800万円の修繕工事を狙ってみたらどうなるのかを実験してみた。すると、1案件の契約を獲るのに3か月、4か月かかってしまう。これでは営業経費がかかり過ぎて商売にならない。「最初は少額の修繕がきっかけでいい。そこで信用されたらリピートで仕事の依頼は増えていく」と考えた。

そこで3万円、5万円といった修繕サービスを商品化し、コンビニで売る。材料は工事に合わせて宅配便で届く。追加工事は別オーダー。そんなビジネスモデルを考えて、財界活動を通じて面識ができたセブンイレブンとヤマト運輸に聞いてもらった。

 

セブンイレブンとヤマト運輸から得た予想以上の反応

 

私からの提案をセブンイレブンもヤマト運輸も好意的に評価してくれた。それまで小規模修繕を大手企業が行うという事例がなかったので「面白い」と思ってくれたようだが、実際の事業化となると「時期尚早」との判断だった。

ところが、セブンイレブンからは逆に小規模修繕サービスをセブンイレブンの店舗を対象に実施できないかとの提案があった。いまや国内2万店を超えている店舗数は当時はまだ8000店舗だったが、次々に新しい店舗を建設していた。一方で、既存店舗の修繕は地元の小さな施工会社に任せていた。

セブンイレブンでは、各地域に建設担当を配置し、店舗オーナーから修繕の依頼が入ると、店舗の新築工事を担当した大手の元施工会社に修繕も依頼していた。しかし、新築をメインで請け負っている元施工会社にとって、修繕は手間がかかるし面倒だ。そこで地元の小さな施工会社に仕事を回していたが、品質にもバラツキがあって安定していないのが悩みのタネだった。

一方、ヤマト運輸からは、小規模修繕を引っ越しサービスと組み合わせて提供できないかとの提案があった。賃貸住宅を退去する時には、入居者が現状復旧を求められることがある。引っ越しに併せて修繕などを行ってオーナーに戻せばトラブルを未然に防ぐことができ、ユーザーからも喜ばれるだろう。ライバル会社との差別化にもなると考えていたようだ。

「ところで、前田建設さんでは修繕サービスなんてやったことあるの?」―両社からは新しいビジネスモデルに関心を持ってもらったが、もちろん修繕サービスなどやったことはない。そこから急いで事業化に向けて動き出すことになった。

(つづく)