2023.7.14

1.JMビジネスモデルが誕生した理由 ー 建設DX前夜の秘話

「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉をご存じない方はいないだろう。2018年9月に経済産業省が「DXレポート〜ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開」を発表してから5年―。DXという言葉は日本社会に浸透したが、デジタル化によって日本経済・産業をトランスフォーメーション(変化・変容)していくには様々な課題が山積している。

今回スタートする「大竹’s eye」では、23年前に立ち上げた小口修繕サービス「なおしや又兵衛」から取り組んでいるJMのビジネスモデルを紹介するとともに、建設産業のDXについて考えてみたい。

 

第1回は、ゼネコンという「ビジネスモデル」をどのように変革しようと考えたのかを振り返る。

 

キッカケは約30年前にさかのぼる。準大手ゼネコン、前田建設工業の土木技術者としてダム建設現場を渡り歩いてきた私(大竹)が、1990年に本社の総合企画部に配属になったのが最初だ。

ちょうどバブル経済が絶頂期を経て崩壊したのが1991年。国内建設投資額は80兆円を超え、GDP(国内総生産)に占める割合は18%という巨大市場だった。当時の日本経済はGDPが米国に次ぐ世界第2位。日米間では1980年代から貿易摩擦問題が激化しており、米国は日本の建設市場の開放を要求していた。

1992年に大物国会議員(自民党の実力者だった故・金丸信・衆議院議員)が巨額脱税事件で逮捕され、その押収資料から「ゼネコン汚職事件」が発覚した。その不祥事によってゼネコン大手が歴代会長を務めていた業界団体「日本建設業団体連合会(日建連)」のトップが空席となる非常事態が生じ、1993年に前田建設工業の前田又兵衛会長(当時)が日建連会長に就任した。

総合企画部のスタッフも又兵衛会長のサポートで、日建連だけでなく、日本経済団体連合会(経団連)などの財界活動にも参加する機会が増えた。おかげで私自身、建設業界だけでなく、不動産業、小売業、運輸業など日本を代表する企業の経営者から直接、いろいろな話を聞く貴重な経験を得ることができた。

 

大物財界人がくれた新規ビジネスのヒント

 

今でも強く印象に残っているのが、当時、不動産協会理事長だった三井不動産会長の坪井東さん(1915〜1996年)。不動産バブルが崩壊したあとに「これからの不動産業で本当に大切なのは中古住宅の長寿命化だ。そのためにも中古住宅流通を活性化することが大事。不動産業界も活性化するし、国のためにもなる」という話を伺ったことがある。

この時に、自分でも中古住宅のことを調べてみた。まだインターネットもない時代で、建設省(現・国土交通省)が公表している資料などを取り寄せると、マンション管理では苦情やクレームが多く、管理会社との紛争も起きていた。マンションでは10〜15年ごとに大規模修繕工事を行うので、その費用を積み立てているが、積み立て不足もトラブルの原因になっている。

「大規模修繕を行う前に悪いところを直しておけば、建物は長持ちするし、修繕費用もトータルでかからないはず」というのが坪井さんの発想だった。その言葉が、私の頭に強く残った。

その後のゼネコン・スキャンダルで、建設業界に対する世間からの風当たりが強くなった。建設業界が社会からの信頼を回復するためには何をすべきか。そうした課題に向き合うなかで、何十億円、何百億円という大型新築工事ばかりを狙う「一括請負」営業というゼネコンのビジネスモデルに限界を感じたようになった。

 

「小規模修繕工事」の市場規模は3兆円?

 

「従来のゼネコンのやり方を反面教師にして、ビジネスモデルを変えていく必要があるのではないか?」―そんな思いが強くなった時に、坪井さんの言葉を思い出した。小規模な修繕工事であれば、顧客からの依頼を受けて仕事をするのでゼネコンのような営業活動をしなくても済むはず。小規模だから同業者で話し合って事前に調整する「談合」も必要ない。

これならゼネコン批判を受けることはないし、中古住宅の活性化という社会課題の解決にもなる。これまでとは異なる建設の世界を広げられることができれば、前田建設全体にフィードバックすることもできるはず。そう考えて小規模修繕工事の事業化を検討することにした。

最初に考えたのが、住宅の修繕需要はどれくらいあるのか―。総務省統計局の家計調査を調べると、住居費のうち「工事その他サービス」で年間約7万円であることが分かった。ここにはエアコンなどの設備機器の費用は含まれていないので、労務費がメインということになる。これに日本の世帯数の約4000万世帯をかけると3兆円近くになる。市場規模としては十分な大きさだ。

次に、住宅の修繕サービスを提供している企業がどこかを調べた。当時は、マンション管理適正化法(2001年施行)が成立する前だったが、大手デベロッパーはマンション管理会社を設立して維持・修繕を行う体制を敷いていた。戸建て住宅も大手ハウスメーカーが手掛けたものは自ら維持管理していたが、それ以外は元施工会社であるビルダーや工務店が廃業したり、経営破たんしていたりしてサポートできていない。

「いずれ70年代、80年代に大量につくった住宅やビルが老朽化して、それらを修繕するのは大変なことになる」―強い危機感が芽生えて修繕問題を建設業界内外で議論したが、誰も深刻に受け止めているように感じられない。全国規模で修繕サービスを提供している企業もない。そんなことを思いあぐねている時に財界活動を通じて、コンビニエンスストアを全国展開するセブン・イレブン、宅配事業のヤマト運輸のビジネスモデルに出会った。

(つづく)