2023.9.4

3.小口修繕サービスにデジタル技術を活用した理由

DXの先駆けだったIT革命

 

5万円の小規模修繕工事で利益を出すにはどうすれば良いのか―。「情報システムを最大限に活用する以外に方法はない」というのが私の考えだった。今なら「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と言うところだが、1990年代は「IT(インフォメーション・テクノロジー)」という言葉もなかった時代だ。

「IT」が広く認知されたのは2000年12月に「IT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)」が成立し、「IT革命」がその年の新語・流行語大賞になってからである。このIT基本法も、2021年9月のデジタル庁発足に合わせて「デジタル社会形成基本法」が成立して廃止された。それだけIT分野の技術進歩は速い。

私がダムの建設現場で働いていた1980年代、現場事務所にようやく簡単な情報システムが導入され始めた頃だ。原価管理やスケジュール管理が紙からシステムに移行しただけで業務の効率化が進み、便利になったことを良く覚えている。

本社経営企画部に配属になった翌年、バブル経済が崩壊した1991年から前田建設工業では構造改革プロジェクトを立ち上げ、全社的な業務見直しに取り組んだ。私はプロジェクト主任として、外部の経営コンサルタントと一緒に各部門や全国の支店を回ってヒアリングし、既存業務をフロー図にまとめた。

実際にフロー図に書き表すと、仕事のやり方がよく判るし、同時に無駄も見えてくる。業務フロー図は情報システムの基本設計図のようなものなので、この時の経験がJMのビジネスモデル構築に大いに役立った。

ただ、この時に100億円を投じて開発した新しい情報システムは3年で無駄になった。当時は、IBMの汎用コンピューター上にシステムを構築したが、パソコンの性能が飛躍的に向上して一気に情報システムのダウンサイジングが進んだからだ。1995年にマイクロソフトからパソコン用OS(オペレーティングシステム:基本ソフト)「Windows95」が登場し、98年には携帯電話の世帯普及率も50%を超え、IT革命へと進んでいく。

 


画像:当時の大竹

 

3次元データ活用の始まりは「ダム工事」

 

少し横道に逸れるが、3次元データの活用を考え始めたのも、1990年代後半だった。通常の建物は平らな敷地に建てるので平面図や立面図など2次元で設計すれば問題ないが、山間の複雑な地形に建設するダム工事では、3次元で地形を測量し、設計図に反映する必要があった。

若い頃は、高額な機械測量機を背負って、蚊に刺されたり、蜘蛛の巣を被ったりして、山の中を歩き回った。雨が降っているときは上司から「お前が濡れても、機械は濡らすな!」と言われたりもした。そうした経験から、簡単に3次元形状を計測できる方法がないかと思い続けていた。

ある時、カメラを使って航空測量が可能になったという話を聞いた。すぐにカメラメーカーの担当者に「地上でもカメラを使って三角測量できるのではないか」と聞いてみたが、回答が得られない。仕方がないので、あちらこちらに聞きに回ると、カメラを使って3次元測量は可能であり、特許も切れていることが分かった。

この時は技術的には実現可能でも、コストがかかり過ぎるので導入は諦めた。ただ、ITの技術革新は速いので「そう遠くないうちに3次元図面も簡単に使えるようになるだろう」と夢は広がった。

 

 

最先端の米製ITツールを武器に社内プロジェクト立ち上げへ

 

問題は、小規模修繕工事用の情報システムとして何を使うかである。1998年頃に前田建設で使っている施工管理システムがあったが、そのうえで3次元図面を試しに動かしてみるとフリーズしてしまう。将来的には3次元図面を使えるようにしたかったので、もっと高性能な施工管理システムが欲しかった。

ある時、モルガンスタンレー証券調査部の高木敦氏から米国で開発された「Buzzsaw(バズソー)」というシステムを紹介された。早速、米国Buzzsaw社(2000年に米Autodeskが買収)に見に行くと、3次元図面も問題なく動かすことができたので驚いた。

「これを日本語化して利用できるようにならないか」と相談すると、日本語化するなら日本支社も設立して、ユーザーを多く獲得したいという。そこで高木さんが日建連会員に広く声をかけて米国視察ツアーを企画し、10社ぐらいが参加。帰国後、モルガンスタンレーで説明会を開催したが、結局、導入したのは私のところ1社だけだった。

米国では、様々な分野で3次元図面が使われ始めていたので、Buzzsawでも扱えるようにしたのだろう。日本では3次元で設計するBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の導入が始まったのが2009年で、米国などからは10年遅れ。国土交通省が建築BIM推進会議を立ち上げて本格普及に乗り出したのは2019年からである。

Buzzsawという最先端のITツールを得て、1999年10月、小規模修繕工事サービスの早期事業化に向けて総合企画部内で社内プロジェクトを立ち上げた。

(つづく)