2023.10.24

4.建設業で「小売り」に挑む

プロジェクトの立ち上げと創業メンバー

 

1999年10月に立ち上げた小規模修繕工事の社内プロジェクトには「リテール・プロジェクト」と名称を付けた。リテール(Retail)とは一般消費者向けの「小売り」の意味である。ゼネコンの仕事は、その対義語となるホールセール(Wholesale)=卸売りであり、ゼネコンとは全く異なるビジネスモデルに挑戦するという決意を込めた。

セブンイレブンとヤマト運輸からは、できるだけ早く小規模修繕工事サービスを全国規模で提供してほしいと期待されていた。セブンイレブンには、全国8000以上ある既存店舗の定期点検と不具合が生じた時の緊急修繕サービスを、ヤマト運輸には引っ越し時に発生する現状復旧工事や引っ越し先での小規模工事サービスを提供するビジネスモデルをそれぞれに考える必要があった。

プロジェクトチームに集められたのは、私(大竹)以外に4人。いまでもJMに在籍して活躍してくれている藤川広志・執行役員をセブンイレブン担当に、西川正良・事業運営本部技術部長をヤマト運輸担当に据えた。現在はJMに在籍していないが、住宅向け修繕サービスの担当にS君、大手ゼネコンの修繕子会社から転職してきたベテランのTさんを技術担当にして、事業化の検討を始めた。

メンバーの中で、S君は「ITオタク」だった。一般住宅向け修繕サービスの事業化はあまり急いではいなかったので、彼には最新のIT動向を調査しながら、私たちの事業に役立つITを探してもらう役割も担ってもらった。ただ、この時に、いろいろなITツールを使い過ぎて費用が大変ではあったが…。

 

 

携帯電話・スマートフォンが当たり前でない時代のIT活用

 

2000年4月に小規模修繕サービスの事業化を社内提案し、10月に「リテール事業部」が発足した。セブンイレブンとヤマト運輸からは2001年春からのサービス提供開始を要請されていたので、とにかく事業体制の整備を急ぐ必要があった。

セブンイレブンやヤマト運輸との打ち合わせ会議では、相手先は10人以上がズラリと並んで、サービスに対する様々な要望を出してくる。それらを会社に持ち帰って検討するわけだが、ビジネスモデルの全体像を把握しているのは私だけ。必死になって要望に対する解決策を考えていると、夜中になっていて、そのまま会社で寝る。そんな日々が続いた。

セブンイレブン向けサービスは、全国の前田建設の拠点から技術者が現地に出向いて点検業務を行い、修繕工事が必要であれば、地元業者を使って工事を行う。ただ、店舗数が2000年度で約8600店もあり、1年で全店舗を回ろうとすると、日曜祝日を除いたとして1日30店舗の点検を行う必要がある。それらの進捗状況を本社で一元的に把握するだけでも大変だ。

建設工事では地域ごとに請負事業者が異なれば工事費用は違うのが常識だが、コンビニで販売する商品の価格は全国一律。小規模修繕のリテール事業でも点検作業の品質や修繕見積り価格も拠点ごとにバラツキが出ないようにしたかった。

その解決策として点検業務や修繕工事をメニュー化し、バーコード表のファイルを作成。当時はブロードバント(広帯域)インターネットの常時接続サービスが始まる直前だったので、データ通信が可能な衛星携帯電話にバーコードリーダーを接続し、メニューを読み取る方式を考えた。そのデータが本社に送信されることで、点検作業の進ちょく状況をリアルタイムで把握できる。

点検作業車には、小型プリンターを搭載し、その場で点検表と見積書を出力して店舗オーナーに渡せるようにした。今なら、スマホで2次元のQRコードを読み取れば簡単にできるだろうが、それらの機器の価格は当時1セット60万円。それを50セット導入した。

 

 

軌道に乗るサービス・そうでないサービス

 

ヤマト運輸向けのサービスは、引っ越し時にオプションで修繕などの工事を行う「修繕サービスパック」である。引っ越し時には原状回復のための費用として敷金が返還されないなどのトラブルが生じやすいので、先に現状回復しておけば顧客にも賃貸住宅オーナーにも喜ばれるだろう。転居先でも、電気や照明などの工事が必要な場合もあるので需要があると考えたようだ。

当時、ヤマト運輸には全国で6万人の「セールスドライバー」がいた。当初から全国展開はとても無理だと思ったので、まずは関東エリアに限定してもらった。サービスパックのビデオ教材を作成し、「セールスドライバー」への研修会も実施した。

しかし、いざサービスを開始すると、全く修繕の依頼が入らなかった。ヤマト運輸は、修繕サービスパックの注文を取ってきたドライバーにはインセンティブを与えるなどサポートしてくれたが、思うような成果は得られなかった。

私自身もセールスドライバーに同行して、引っ越しセールスの現場を見てみた。そこで判ったのは、彼らは自分が理解できていない商品を絶対に売らないということだ。確かにドライバーにとって修繕サービスは馴染みがないし、トラブルになった時にも責任が取れない。結局、「修繕サービスパック」は成果が上がらないまま縮小していった。

リテール事業は、セブンイレブンの店舗点検・修繕サービスを柱にビジネスモデルを構築していくことになる。

 

リテール事業部発足当時

 

 

(第1回 終わり)