2024.2.6

6.「予防保全」と「データ活用」の重要性

JMの前身、「なおしや又兵衛」を設立

 

2001年4月、リテール事業部として小規模修繕サービスを開始した。名称は「なおしや又兵衛」。「又兵衛」は、前田建設工業の前田又兵衛会長(当時)の名前から取った。ゼネコンが手掛けたことのない新規事業にかける意気込みを企業トップの名前を付けることで社内外に示した。

同時に新会社「なおしや又兵衛」(JMの前身)を設立した。セブン-イレブン向けサービスを提供するには24時間365日対応で、前田建設とは異なる勤務体制を組む必要があった。そのために別会社を設立し、新規採用で約50人の社員を確保した。私は前田建設工業リテール事業部長となおしや又兵衛社長の二足の草鞋を履くことになった。

 

「なおしや又兵衛」ロゴ

 

セブン-イレブンの定期診断サービスは、地元で付き合いのある事業者に依頼するなどの理由でサービスを利用しないオーナーが約1000店舗ほどあったが、残りの全国約7500店舗を約50人の要員で、3か月で巡回しなければならない。1人当たり平均150店舗を点検する必要があり、ホテルに泊まりながら全国を回った。

点検作業は、建物のどの部位が破損しやすいとか、どの設備が故障しやすいといったデータがあると、効率的に行うことができる。そこで過去の修繕履歴を見せてほしいと依頼したが、セブンーイレブンだけでなく、その後、取引先となった企業も含めて、ほとんど記録を残していないことがわかった。

病院であれば、患者ごとに診断内容や治療履歴をカルテに記録しているが、建物では建築基準法で定期報告が義務付けられている場合を除いて、点検・修繕履歴を残していないことを再認識した。ただ、企業であれば帳簿には修繕費用の支払い記録が残っているので、詳しい修繕内容は分からないものの、おおよその見当をつけて点検マニュアルを整備した。

 

 

“壊れる前になおす”が高評価を得る

 

建物の定期診断を行う狙いは「予防保全」である。私たちが健康診断を定期的に受けるのも、病気を早期に発見して日常生活を健康に過ごすため。店舗でも大事なのは施設でトラブルを起こさずに当たり前のように稼働して顧客にサービスを提供することだ。

建物の部材や設備は、簡単には壊れない強度・耐久性を備えているが、コンビニの店舗のように絶えず多くの来店者が利用する建物ではかなりの頻度で故障・不具合が生じる。例えば、一般家庭のトイレが詰まりなどで故障することは滅多に起こらないが、コンビニのトイレの使用頻度はけた違いだ。同様に、当時のコンビニの出入り口は手動の両開きドアだったので、その開閉頻度も他の建物とは比較にならない。その結果、トイレの詰まりやドア・ヒンジなどの故障が発生する確率が当然、高くなる。

コンビニのような店舗では、トイレも来店者の出入り口も1カ所だけなので、故障すると店員もトイレを利用できなくなり、店舗の営業にも支障を来たす。そうした不具合がどの程度の頻度で発生するのかというデータがあれば、それに基づいて対策を講じることも可能になる。

定期診断を開始して2年ほど経過すると、建物点検の必要性やデータの重要性が認識されるようになった。これが、次に私が実感した「顧客の意識変化」だ。

セブン-イレブンでは毎年、フランチャイズオーナー一人一人にヒアリング調査を行い、同社が提供する各種サービスの評点を付けている。定期診断もその対象で、1年目はどのような評点が付くのかが不安だったが、結果は他の既存サービスと比べても高い評点だった。セブン-イレブンでも定期診断の結果報告だけでなく、そのデータを蓄積し活用することで予防保全に繋げていくという私の提案に同意してくれるようになった。

 

 当時の建物診断パンフレット

 

 

質の高いデータ収集こそがデータ活用を可能にする

 

データ活用で重要なのは、データの「精度」をいかに確保するか。そのためにはデータを取得する基準や方法などを標準化する必要がある。地元の事業者が行った修繕の工事報告を紙でバラバラに提出してもらっても精度の高いデータは収集できない。

ポイントになるのがITツールの活用である。決められたフォーマットで情報や写真などを入力することで、必要なデータが漏れなく収集できる。さらにマネジメント会社がデータ管理も行うことで、精度が高く分析可能なデータを蓄積できることになる。

リテール事業を開始する時に、施工管理システムとして米Autodeskの「Buzzsaw」を導入した。その後、セブン-イレブンには、24時間体制のマネジメントセンターを設置して情報システムにデータを蓄積すること、施設ごとにカルテを作成してデータを活用すること、さらには施設図面を3次元でデジタル化することなど、ITツール導入を提案し、データ活用のための基盤整備を進めた。

日本では2015年に政府がデジタル社会の実現に向けて「Soceity5.0」を打ち出し、「データ駆動型社会」の構築に取り組み始めたが、それよりも10年以上前の出来事である。

 

 

(第2回 終わり)